どこか懐かしい未来の車、フォルクスワーゲンの新型コンセプトカー「Mission Efficiency」
フォルクスワーゲンが、ちょっと変わった電気自動車のコンセプトモデルを公開しました。
その名も「Mission Efficiency(ミッション・エフィシエンシー)」。
流線型のボディを持つ2ドアクーペで、見た目だけならスポーツカーにも見えますが、このクルマの目的は速く走ることではありません。
徹底的に空気抵抗とエネルギー消費を減らし、できるだけ少ない電力で遠くまで走ることがMission Efficiencyの最大のテーマです。
しかも、完全な未来技術だけで作った実験車ではありません。
フォルクスワーゲンによると、MEB+をベースに新型「ID. Polo」などの量産車に使われる技術を活用しており、EVの効率をどこまで高められるのかを示す技術フラッグシップとして開発されました。
フォルクスワーゲン「Mission Efficiency」とは?
Mission Efficiencyは、4人乗りではなく2+2シーターの2ドアクーペとして設計されています。
全長4,775mm、全幅1,744mm、全高1,392mm、ホイールベース2,700mmというサイズで、ID. Poloより全長が722mm長くなっています。
この長いボディを生かして、後方へ向かって絞り込まれるティアドロップ型のシルエットを採用。
リアホイールも完全に覆われ、フロア下面もカバーするなど、徹底的に空気の流れを整えています。
その結果、空気抵抗係数(Cd値)は0.158。
フォルクスワーゲンによれば、これまで公道走行が認められた車両の中で最も低いCd値となっています。
| 未来っぽいのは効率を重視した結果生まれる形ということなのでしょうね。 |
見た目がかなり細長いのも、単なるデザイン上の遊びではありません。
「カッコいいからこうした」というより、空気抵抗を減らすためにボディ形状そのものを決めていった結果、このスタイルになったというわけです。
わずか54.9kWhのバッテリーで走る
Mission Efficiencyのバッテリー容量は、ネット値で54.9kWh。
最近の大型EVでは100kWhを超えるバッテリーも珍しくないため、数字だけを見るとかなり小さく感じます。
ところが、このクルマでは大容量バッテリーを積むのではなく、消費する電力そのものを減らすことで航続距離を伸ばしています。
搭載されるモーターはフロントに1基。
出力は99kW(135PS)で、0-100km/h加速は9.0秒、最高速度は160km/hです。
つまり、速さを追求したEVではありません。
むしろ「135PSしかないのに、どこまで遠くへ行けるのか」という方向に技術を振っているわけです。
1,278kmの走行で驚異的な低電費を記録
Mission Efficiencyの凄さが分かるのが、実際の走行テストです。
フォルクスワーゲンはドイツ・ヴォルフスブルクからポーランドのポズナン、チェコのオロモウツを経由して、オーストリアのウィーンまで1,278.36kmを走行。
この公式記録走行では、平均速度67.72km/h、最高速度138km/hを記録しました。
走行中の消費電力は、充電損失を含まない状態で6.89kWh/100km。
充電時の損失まで含めると7.51kWh/100kmとなっています。
ここで注意したいのは、1,278.36kmを54.9kWhのバッテリーだけで走り切ったわけではないことです。
走行中には1回の充電を行っています。
ただ、それでもこの距離を走り、到着時には車両の表示上で164kmの残り航続距離が表示されていたというのは、かなりインパクトがあります。
理想条件では6.48kWh/100km
さらにフォルクスワーゲンは、一定速度で走行し、上り坂がなく、エアコンなどの補機類を停止した「理想的な走行条件」でもテストしています。
そのときの消費電力は、なんと6.48kWh/100km。
走行速度は68km/hに設定されています。
もちろん、これは普段の道路を走る一般的な条件とは異なります。
それでも、Mission Efficiencyがどれだけ徹底的に効率を追求したクルマなのかを示す数字でしょう。
空気抵抗だけではない「低電費」の秘密
Mission Efficiencyの効率の良さは、ボディ形状だけで実現したものではありません。
例えば、リアには新しい電気機械式ブレーキを採用しています。
通常の油圧式ブレーキでは必要になるブレーキフルードや配管をリア側からなくし、摩擦損失をほぼゼロにすることで、航続距離の向上につなげています。
さらに、ボディにはアルミニウム構造を採用し、ドアやボンネット、トランクリッドなどにはCFRP系のアラミド複合材を使用。
軽量化も徹底しています。
そして面白いのが、ドアミラーを普通のミラーのままにしていることです。
「空気抵抗を極限まで減らすならカメラ式にすればいいのでは?」と思ってしまいますが、フォルクスワーゲンによると、カメラ式にしても全体としての効率向上は小さい一方、量産化ではコストが大きく増えるため、従来型のミラーを採用しています。
ここにも、Mission Efficiencyが単なる技術自慢ではなく、量産車への応用を意識したコンセプトであることが表れています。
ソーラールーフも採用
もうひとつ特徴的なのが、太陽光発電システムです。
ガラスルーフとトランクリッドには、合計370Wの太陽光発電システムを組み込んでいます。
発電した電力は車両の電装系に利用され、条件によっては1日最大30km分の航続距離を補えるとされています。
もちろん天候や季節、地域によって発電量は変わりますが、走っていない間にも少しずつエネルギーを得られるという考え方は、EVとの相性が良さそうです。
インフォテインメント画面まで省略
意外なところで、インテリア面ではMission Efficiencyには、一般的なEVにあるような大型の固定式インフォテインメントディスプレイがありません。
その代わりに、ドライバー自身のスマートフォンやタブレットを固定して使う「Bring your own device」という考え方を採用。
さらに、固定式スピーカーも搭載せず、Bluetoothスピーカーを使用します。
ここまで来ると「未来のクルマ」というより、余計なものを徹底的に削った実験車という印象です。
もちろん、市販車としてそのまま登場することを前提にした装備ではありませんが、かつてそれぞれが独立したハードウェアとして搭載されていた車載機能が技術的に集約されることによって、一つの端末内のアプリケーションのようなソフトで動かすのが当たり前になったことを考えると、当初は車載電話として登場したケータイが、その後スマホにかわり、最終的に「その一台が全部」になってしまう可能性は十分にありそうですね。
まるで「XL1」のEV版?
Mission Efficiencyを見ていると、どうしても思い出すクルマがあります。
それが2013年に登場した「XL1」です。
XL1は、フォルクスワーゲンが燃費性能を極限まで追求したプラグインハイブリッド車で、ディーゼルエンジンとモーターを組み合わせ、非常に細長いボディやカーボン製ボディなどを採用していました。
2013年から2016年にかけて、わずか250台が生産されたことでも知られています。
Mission EfficiencyもXL1と同じように、低い空気抵抗と軽量化を徹底したデザインになっています。
フォルクスワーゲンもMission Efficiencyのデザインについて、XL1からインスピレーションを得たことを説明しています。
ただし、XL1が「少ない燃料で走るクルマ」だったのに対し、Mission Efficiencyは「少ない電力で走るクルマ」。
時代に合わせて、そのテーマが電動化されたと考えると分かりやすいでしょう。
Mission Efficiencyは市販されるのか?
残念ながら、Mission Efficiencyそのものが市販される予定はありません。
フォルクスワーゲン自身もMission Efficiencyを「Concept vehicle. Not for sale.」としており、現時点で販売予定はありません。
ただ、今回のコンセプトで重要なのは、このクルマ自体が販売されるかどうかではありません。
フォルクスワーゲンは、Mission Efficiencyに新型ID. Poloなどの量産技術を使用しています。
モーターも99kW(135PS)の量産仕様をベースにしており、MEB+の前輪駆動システムも活用しています。
つまり、「特殊なEVを作ったから記録を出せた」という話ではなく、量産EVに使える技術でも、空力や軽量化を徹底すればここまで効率を上げられるということを示すためのモデルなのです。
EVは「大容量バッテリー」だけが答えではない
EVというと、航続距離を伸ばすために大容量バッテリーを搭載するという考え方になりがちです。
しかし、バッテリーを大きくすれば車重も増えます。
車重が増えれば、その分だけ走るためのエネルギーも必要になります。
Mission Efficiencyが面白いのは、そこを逆方向から考えているところです。
「大きなバッテリーを積む」のではなく、「そもそも電気を使わないクルマを作る」。
そのために空気抵抗を減らし、軽量化し、駆動系の効率を高め、さらに太陽光まで利用する。
かなり地味なアプローチですが、EVが普及していく中では、こうした「使う電気を減らす技術」は非常に重要になってきそうです。
Mission Efficiencyは、スーパーカーのような加速性能を競うクルマではありません。
むしろ、速さではなく「どれだけ少ないエネルギーで遠くまで走れるか」を追求した、もうひとつのスーパーカーと呼べる存在なのかもしれません。
そのスタイリングも含めて、どこか、かつて想像した懐かしくも遠い未来の車という感じがしますね。
参考資料
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