ロールス・ロイスの「スピリット・オブ・エクスタシー」とは?100年以上続く女性像の物語

ロールス・ロイスの象徴「スピリット・オブ・エクスタシー」とは?女性のマスコットの歴史。

ロールス・ロイスの象徴「スピリット・オブ・エクスタシー」とは?女性のマスコットの歴史。

ロールス・ロイスのボンネットに立つ、ひとりの女性。

ドレスを後ろへなびかせ、少し前かがみになったその姿は、ロールス・ロイスを象徴するものとして世界中で知られています。

その名前は「スピリット・オブ・エクスタシー」。

クルマのエンブレムというより、小さな彫刻やアクセサリーのようにも見えるこのフィギュアですが、実は100年以上前からロールス・ロイスとともに歩んできた歴史があります。

そして、その背景をたどっていくと、ひとりの女性と、ひとりの彫刻家をめぐる少し複雑な物語が見えてきます。今回は、そんな1911年以来の不朽の象徴である「スピリット・オブ・エクスタシー」の概要を、ロールス・ロイス自身が2026年3月に公開したプレスキットをもとにご紹介していきたいと思います!

ロールス・ロイスの「スピリット・オブ・エクスタシー」とは?

ロールス・ロイスの「スピリット・オブ・エクスタシー」とは?

スピリット・オブ・エクスタシーは、ロールス・ロイスのボンネット先端に取り付けられているマスコットです。

現在ではブランドを象徴する存在になっていますが、もともとは20世紀初頭の自動車文化から生まれたものでした。

当時は、自分のクルマに好みのマスコットを取り付けるオーナーが珍しくありませんでした。動物をモチーフにしたものや、ユーモラスなデザインなど、その種類はさまざまです。

そこでロールス・ロイスは、ブランドを象徴するひとつのフィギュアを用意することになります。その制作を任されたのが、イラストレーターであり彫刻家でもあったチャールズ・サイクスでした。

そして1911年、現在のスピリット・オブ・エクスタシーにつながるフィギュアが正式にロールス・ロイスの知的財産として登録されます。

そのモデルになったのは、ひとりの女性

スピリット・オブ・エクスタシーについて語るとき、欠かせない人物がいます。

その名前はエレノア・ソーントン

彼女は当時のロールス・ロイスに関係する人物たちと交流があり、チャールズ・サイクスにとっても身近な存在でした。

サイクスは彼女をモデルにしたとされる「The Whisper」という作品を制作しています。若い女性が衣装をなびかせながら立つ姿を表現したこの作品は、現在のスピリット・オブ・エクスタシーを考えるうえでも重要な存在です。

エレノア・ソーントンをモデルにしたとされる作品「The Whisper」
エレノア・ソーントンをモデルにしたとされる作品「The Whisper」(画像:プレスイメージより)

ただし、スピリット・オブ・エクスタシーの起源については、現在でもいくつかの説が残されています。ロールス・ロイス自身も、初期のデザインについて「The Whisper」が直接の原型になったという説だけでなく、パリで見た「サモトラケのニケ」から影響を受けたという説にも触れています。

つまり、100年以上も前に生まれたこの女性像には、今でも完全には一つに決められない部分が残っているのです。

「The Whisper」から始まったデザイン

ロールス・ロイスの「スピリット・オブ・エクスタシー」とは?

現在のスピリット・オブ・エクスタシーを見ると、女性が両腕を後ろへ伸ばし、衣装を風になびかせているように見えます。

この衣装はしばしば「翼」と表現されることがありますが、実際には風になびくドレスを表現したものですが、この姿勢には単なる装飾以上の意味があります。

前へ身体を傾け、風を受けながら進もうとする女性の姿は、ロールス・ロイスというブランドのイメージとも重なります。

1911年に正式なマスコットとなってから、彼女はロールス・ロイスのクルマとともに長い時間を過ごすことになりました。

そして、2016年に至るまでにクルマは大きく変わっていきます。

エンジンも、ボディも、インテリアも、そして自動車を取り巻く社会そのものも変わりました。

それでも、ボンネットの先には彼女が残されています。

100年以上、ずっと同じ姿だったわけではない

「昔から変わらないロールス・ロイスの象徴」というイメージがありますが、実際にはスピリット・オブ・エクスタシーも時代に合わせて姿を変えてきました。

サイズや素材が変更されたほか、一時期にはひざまずいた姿のものまで存在していたり、さらに1970年代には、一部の国でボンネットマスコットの安全性が問題となりました。

スイスではフィギュアの装着が禁止されたため、ロールス・ロイスはボンネットの中へ収納できる仕組みを開発。その後、この仕組みが現在につながる格納式のシステムへと発展していきました。

こうして見ると、スピリット・オブ・エクスタシーは「絶対に形を変えない伝統」ではなく、大切なイメージを残しながら、その時代のクルマに合わせて少しずつ変化してきた存在なのです。

小さなフィギュアも、実は職人の手で作られている

ロールス・ロイスの「スピリット・オブ・エクスタシー」の製造方法

ロールス・ロイスらしさは、そのフィギュアの作り方にもあります。

現在のスピリット・オブ・エクスタシーには、ロストワックス鋳造と呼ばれる古くからある鋳造技法が使われています。

まずワックスで原型を作り、それをもとに鋳型を形成。そこへ約1,600℃のステンレス鋼を流し込み、鋳造後には表面を整え、機械加工や研磨などの工程を経て仕上げられます。

しかも、最終的な仕上げは手作業です!

ロールス・ロイスの「スピリット・オブ・エクスタシー」の製造方法
最終加工は、仕上げ部門でピーニングと呼ばれるプロセスを使用して行われます。(画像:プレスイメージより)

そのため、同じデザインであっても、一体一体にわずかな違いがあります。

コンピューターで設計された現代の高級車の上に、最後は人の手で仕上げられた小さなフィギュアが載っているという、この組み合わせは、いかにも高級車の代名詞的な存在であるロールス・ロイスらしいところかもしれません。

2022年、スピリット・オブ・エクスタシーが大きく変わった

スピリット・オブ・エクスタシーの変化

2022年、スピリット・オブ・エクスタシーに大きな変化が起こります。

そのきっかけになったのが、ロールス・ロイス初の量産電気自動車「スペクター」です。

新しいフィギュアは、それまでのものより低く、前傾した姿勢になりました。

従来型の高さが100.01mmだったのに対し、新型は82.73mm。片足を前へ出し、身体を低く構えることで、より動きのある姿になっています。

見た目だけを見ると、「少しデザインが変わった」という程度に感じるかもしれませんが、この変更にはきちんと理由があります。

電気自動車「スペクター」のために、姿勢まで変えた

ロールスロイス スペクター

新しいスピリット・オブ・エクスタシーは、デザインだけではなく空力性能も考えて作られました。

ローブの形状も空気の流れを考えて変更され、スペクターのボディと一体となって空気抵抗を抑えることが考えられています。

スペクターのスピリット・オブ・エクスタシー

ロールス・ロイスによると、初期のスペクター試作車ではCd値0.26を記録し、同社史上もっとも空力性能に優れたモデルになりました。

伝統を守るというと、昔の形をそのまま残すことを想像しがちですが、ロールス・ロイスの場合は少し違い、残すべきものは残しながら、必要なところはきちんと変えるということを柔軟に行っている点が、ブランドが100年以上続いてきた理由なのかもしれません。

現代のロールス・ロイスでも、"彼女"は変わらない

ロールス・ロイスの「スピリット・オブ・エクスタシー」

現在のロールス・ロイスには、ファントム、ゴースト、カリナン、スペクターなど、さまざまなモデルがあります。

ボディサイズもキャラクターも違いますが、その先端にはブランドを象徴するスピリット・オブ・エクスタシーがあります。

さらに近年では、プライベートコレクションのために、18Kゴールドや24Kゴールドプレートなどを使った特別なスピリット・オブ・エクスタシーも制作されています。

単なる「ボンネットマスコット」というより、ロールス・ロイスの世界観そのものを表現するオブジェとして扱われている、考えてみると他の自動車メーカーではこのようなアイコン的なものは現代では少なく感じられ、あまり見かけない独自の存在となっているのも面白いですね。

100年以上経っても、彼女がロールス・ロイスにいる理由

ロールス・ロイスの「スピリット・オブ・エクスタシー」

自動車の歴史を考えると、100年以上同じブランドの象徴として残り続けるデザインは決して多くありません。

1911年に誕生し、時代に合わせて形を変え、安全性の問題にも対応し、そして現在では電気自動車の空力性能まで考えて再設計されながらも、それでも、風になびくドレスと前へ進もうとする女性の姿は残っています。

そこにあるのは、「昔のロールス・ロイスを守る」という考え方だけではなく、ブランドの大切な部分を残しながら、その時代に合った形へ少しずつ変えていくということなのだと思います。

だからこそ、1911年に生まれた小さな女性像は、100年以上経った現在もロールス・ロイスのボンネットに立ち続けています。

クルマそのものが大きく変わっても、そこに彼女がいる。

スピリット・オブ・エクスタシーがロールス・ロイスにとって特別なのは、単に有名なエンブレムだからではなく、ブランドの歴史と現在をつなぐ存在になっているからなのかもしれません。

参考資料/画像:
Rolls-Royce Motor Cars PressClub「THE SPIRIT OF ECSTASY: A CONSTANT PRESENCE SINCE 1911」
Rolls-Royce Motor Cars PressClub「SPIRIT OF ECSTASY REDESIGNED FOR MOST AERODYNAMIC ROLLS-ROYCE EVER」
Rolls-Royce Motor Cars PressClub「SPIRIT OF ECSTASY: THE HUMAN DRAMA BEHIND THE LEGEND」

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